光熱費や携帯事業の二部料金制は、政府が補助金を出したくないので、かわりに国民が払うことで成り立っています。従量課金制や基本料金の仕組みは、独占市場を規制するためにできた制度です。
二部料金制や自然独占の理屈がわからなくて悩んでいませんか?
実は、政府の独占市場の規制を解明することによって二部料金制は理解できます。
僕は大学でミクロ経済学を習得しているので解説できます。
この記事では、費用逓減産業、自然独占の余剰の損失、二部料金制を完全に理解することができます。
記事からわかることは、独占市場になった理由、電力自由化の背景、二部料金制に至った経緯を理解できます。
ポイントは4つです。
- なぜ独占市場になってしまったのか?
- 二部料金制につながる5つの施策とは
- なぜ政府の赤字を国民が補うのか?
- 自由化の背景には何があるのか?
では具体的に解説していきます。
二部料金制は独占市場がきっかけ
二部料金制を理解するためには、独占市場を知ることです。政府の規制も費用逓減産業も独占市場の規制から始まったのです。
では独占市場の基礎から解説していきます。
独占市場とは
一社が市場を全て独占すること。需要も供給も自社の都合で設定も変更も自由自在にできます。
つまりそれはどういうことか。
価格を自由に設定できる
このような暴挙を放置しておくと、とんでもないことになります。なので政府は規制をかけました。
ですが政府が規制をかけすぎると事業者は割に合わないので撤退となります。なので政府もある程度は認めざるを得ない理由がありました。
それが独占市場を生むことになったのです。
なぜ独占市場になったのか
電気事業を例に、独占になってしまった理由を3つ解説します。
莫大な費用コスト
原発事業や液化天然ガスの供給というのは、最初の立ち上げコストが凄まじくかかります。
原発産業などは億円規模ではなく兆円規模でかかります。兆円と言われてもピンとこないでしょう。
例えば、日本人口が仮に1億人だとしましょう。その1億人から1人頭1万円を投資してくれと頼まれたら、え!ってなりますよね。
1000円なら許せますが1万円になると躊躇します。それぐらい費用がかかるのです。
原発は安全面でもリスク対策費用でも容易に出来るものではありません。その国々によって規制があるので簡単にはいきません。
(2019年1月)日立がイギリスから原発事業を撤退しました。理由は規制が厳しく条件をクリアできなかったからです。
エネルギー事業は誰でも参入できるものではない。
インフラ投資が莫大
電気やネットなどの送配電の線は、電柱を見れば一目瞭然でわかるように、複雑に絡み合ってますね。
これが他の事業者も配線したいとなると、線の束が増え蜘蛛の巣状態になり、どんだけ増やすんだよ!てなりますよね。
重みで落ちてくる危険性も出てくるので配線は増やせません。
そこで送電と配線にわけた線のみに限定させ、電力事業法により送配電線のインフラ設備を整えた業者しか使えないようにしたのです。
政府が認めた事実上の独占市場が出来上がってしまったのです。
分散ができない
独占市場になると独占禁止法になるので、大企業などは小さく分散されますが出来ないのです。
なぜならコスト負担が増えてしまうからです。
例えば、数社に分散してパワーを供給しても1社の生産量は低下します。地域の消費者が増えると供給能力を上げるため、かえって費用があがり負担が増えてしまいます。
独占市場はこれだけではありません。独占市場に似た地域独占もあるのです。
地域独占とは
ある一定の地域だけに特化した独占なので地域独占と言います
特定の地域において、商品やサービスを提供する事業者が1つだけであり、需要者に選択の余地がない状態を言います。
地域独占は、特定の地域には唯一の事業者であるが、全国的に見れば多数の事業者がいます。東京都で言えば3つです。
- 上下水道:東京都水道局・下水道局のみ
- 家庭用電力:東京電力のみ(2015年まで)
- 家庭用ガス:東京ガスのみ(2016年まで)
需要者は地域内で唯一の事業者から選択するので、事業者は価格支配力を持つので規制をかけないといけません。
独占を認めたうえで規制をかける
エネルギー事業は誰でも参入できません。政府は独占を認めた上で規制をかけます。
- エネルギーを全ての国民に配分すること
- 適正な価格で供給すること
この規制が二部料金体制につながります。ポイントは5つです。
- 費用逓減産業
- 自然独占の余剰の損失
- 限界費用価格形成原理
- 平均費用価格形成原理
- 二部料金制
順に解説します。
費用逓減産業
費用逓減産業とは、利用者が増えれば増えるほど、生産量が増加し、長期平均費用が次第に減少する費用構造を持つ産業分野です。
分かりにくいのでグラフを使って費用逓減産業を説明します。
通常の平均費用曲線はU字型のようになります。右図にあるように、2つの曲線が上から下にさがったまま上に上昇していません。理由を説明しましょう
例えば1兆円で作った事業をたった1人だけに使うのであれば、1人に対して1兆円の負担です。
1000万人が使ってくれれば10万円、1億人が使ってくれれば1万円、毎月使えば1兆円の原発費用は回収できるのです。
費用逓減産業は最初のコストは莫大にかかりますが、あとは自動で大量生産してくれるので、資源や人権費、管理系に費用がかかるぐらいで、あまり他の事には費用はかからないのです。
使えば使うほど費用は下がるので上がってくることはありません。
見方を変えると、低コストのまま産業が成り立つということは、技術が相当優れていないと出来ないということになります。
自然独占の余剰の損失
自然独占とは、多くの客を囲い込み低コストで供給できれば多くの需要をつかむことが出来ます。
そうなると競争市場であっても最終的には1社のみとなるので、自然独占となります
自然独占とは競争の結果おきてしまう現象ですが、国民すべてにエネルギーを配分できるかといえば、出来ないのです。
なぜなら余剰の損失になってしまうからです。
グラフを使って解説します。
独占市場は供給は1社なので、供給量を自由に決めることができます。商品は大量に市場に出回ると価値が無くなります。
グラフにて、総需要より限界収入が左斜めになっているのは、供給を増やせば価格が下がるため、総需要より落ちるのです。
限界収入とは、一つ追加した時に売れる収入を意味します。なので価格と限界収入は同じになります。
限界費用のU字型や利益の規模、価格=限界収入に関しての詳しい記事はこちらです。
[kanren postid=”4729″]
自然独占の理論により、限界収入と限界費用曲線の交点が市場に最適化された配分となります。
これは自然独占の配分です。全国民に配分されず値段も上がっており、余剰の損失まで出ています。
余剰の損失になると独占市場特有の利益の損失が発生します。この余剰の損失が無くなれば全国民にエネルギーを供給でき、安く提供できます。
これでは政府の規制を実現することができません。全国民にエネルギーを配分するために限界費用価格形成原理を適応させてみます。
自然独占の詳しい記事はこちらになります
[kanren postid=”4807″]
限界費用価格形成原理
限界費用価格形成原理とは長期限界費用で価格が等しくなるような水準で価格規制することです
例えば長期で考えた場合、1つ生産するのにかかる費用と、総需要の2つの観点から見た最適な資源配分で需要と生産量を決めます。
分かりにくいのでグラフで説明しましょう。
2つの曲線が交わるAが全ての国民にエネルギーを配分できるので、P円とQ個に決まります
ですがもう一つ問題があります。それは長期平均費用での損失が出てしまうのです
長期平均費用は総生産量にかかる総費用です。分かりにくいのでグラフで説明しましょう
Bが平均費用×Q個=総費用となり、赤で囲まれた部分がマイナスとなってしまいます。
使えば使うほど最適にエネルギーは配分されるが赤字も拡大します。
そこで政府は赤字のマイナス分を補助金という形で補う事にしましたが、莫大に膨れ上がるのでよくありません。
今度は、適正な価格で供給するために平均費用価格形成原理を適応させてみます。
平均費用価格形成原理
平均費用価格形成原理とは平均費用で価格が等しくなるような水準で価格規制することです。
つまり長期で考えた場合、1エネルギー生産するのにかかる平均費用と、総需要の2つの観点から見て需要と生産量を決めるのです
分かりにくいのでグラフで説明しましょう
企業の利益を考えると、平均費用×Q個=総収入となりますが、平均費用×Q個=総費用となるので全く同じになってしまいます。
このような現象を損益分岐点といいます。
ということは、利益0となるので赤字にも黒字にもならず政府の補助金は必要ありません。
このような状態を独立採算と言います。
そして利益の損失も出てしまうのです。
AとBの三角地帯だけ利益の損失がでます。これは先ほど説明した独占市場特有の余剰の損失です。
電車賃がいい例で、区間から区間を利益0の価格で売り出すので、それ以上でもなければそれ以下でもない。
企業の利益はで増えませんし最適に資源も配分されないので、この価格規制もよくありません。
総費用や総収入の計算や考え方の詳しい記事はこちらです。
[kanren postid=”4710″]
- エネルギーを全ての国民に配分すること
- 適正な価格で供給すること
2つの規制を上手く解決したやり方が二部料金制です。
二部料金制
二部料金制とは、需要量に関係なく支払う基本料金と需要量に応じて払う従量料金の2本柱の料金設定です。
エネルギーを最適資源配分し、コスト負担の赤字を上手く補うには
- 使った分だけ払う
- 基本料金を設定する
この2つを解説します
使った分だけ払う
これは最適資源配分がちゃんと適応されている限界費用価格形成原理です。使った分だけ払うので、余分な利益も出ないが余計な費用も出ません。
ですが限界費用価格形成原理の欠点は利益がマイナスになることでした。マイナスになるので価格を上げてしまうと、消費者は逃げるので需要量が減ってしまい価格を上げることが出来ません。
基本料金を設定する
基本料金を採用すると、政府の補助金は必要ないので独立採算を採用することになります。
限界費用価格形成原理の規制は赤字になり、政府が補助金を出すと莫大な金額になるので、赤字を国民に負担させる方法が基本料金制です
使っても使わなくても基本料金は徴収されてしまいます。
二部料金制にすることで、エネルギー事業はバランスを保っているのです
エネルギーに限らず、二部料金体制をとっている事業者は全てこのような理由があると考えて構いません。
携帯料金もそうですしガスも水道もそうです。
二部料金制の基礎や制度の成り立ちは以上です。そもそも独占市場になってしまったから二部料金制が作られたのです。
今まで独占市場が続いていましたが、競争市場にするため近年自由化が注目を浴びるようになってきました。最後になぜそのようになったのか解説します。
これからのエネルギー事業
なぜ電力自由化になったのか
送配電線は大手の電力会社しか持っていません。送電は発電所から地域住民へ、配電とは地域から地域へ電力を供給することをいいます
この送配電線は大手の電力会社しか持っていないので、電力事業法により地域独占が認められたものです。
よくよく考えてみると独占しているのは送配電だけで、電力の小売りや発電所の建設は他の事業者でも出来ます。
大手電力会社に適正価格で送配電線を貸し出すことにより、電力供給社を増やし競争させれば、個人でも供給できるし新規参入が増えます。
競争させることで商品の品質やサービスを向上させることを目的としています。
この電力競争の仕組みは都市ガスにも応用が出来ます。
ガスを送っている太いパイプ、これを導管部門と言いますが、これを適正価格で貸し出すことにより、他のガス供給社が参入できるようにしています。
ガス事業も2017年に全面自由化されました。
ただし、電力もガスも円滑に競争できるとは限りません。なので市場監視委員会が自由化の競争を監視しています
これが自由化になった理由です。
独占市場というのは、競争相手がいないので質も上がらなければ、価格競争も起きません。
しかも経済学では測れない非効率も生じます。非効率とは作業のスピードが遅くなるとか、やる気が無いなど数字化できないことです。
この非効率をX非効率といいます
政府は競争市場にするためにコンテスタビリティー理論とヤードスティック競争を採用しました。
コンテスタビリティー理論
コンテスタビリティー理論とは、巨額な設備が必要で、自然独占や寡占になっている市場でも、巨額な既存設備が売買可能、賃借可能で投資資金を回収可能であれば、競争が働くので独占企業といえどプラスの利潤を得ることが出来ないという考えです。
つまり、設備などのレンタル料金回収はいいけど、それ以上の利益は許さない、ということです。
電気、ガス、水道、通信などは今後競争市場になります。
格安スマホなどが続々と出てきているでしょ。あれは政府がNTTなどに適正価格で電波配線やネット環境を貸しなさいと規制をかけているのです。
参入業者は安く設備を借りられるので参入しやすく、かつ最初のインフラ設備の投資がいりません
初期投資がないので、格安スマホと宣伝出来るのです。
ヤードスティック競争
ヤードスティック競争とは、地域独占企業の費用構造を比較して、世間の監視にさらすことにより、費用削減を促すことです。
携帯事業などをみると料金比較が分かるようになっています。つまりライバルや顧客に晒すことにより、企業意欲を高め競争させようというわけです。
携帯事業の競争に関する記事はこちらです
[kanren postid=”4767″]
今後は技術革新によりコスト負担は更に削減され、料金も安くなるでしょう。
まとめ
二部料金制は、事業者の赤字負担を補うために基本料金が設定されている。
最適資源配分を行うために、使った分だけの料金設定にしている。
エネルギー事業は初期投資が莫大なため簡単に参入できない。
コンテスタビリティー理論を用いる事で、市場競争を起こしている。